2023.04.05

マンション再生手法の決め方について

 

はじめに

前記事において老朽化したマンションが抱える諸問題を取り上げた。設備や構造、耐震性やマンション機能など様々な問題を抱えることが分かる。次の問題として、それをどう解決していくかという課題が出て来る。

課題解決の多くは修繕や改修を行うことやマンション建替え、もしくはマンション敷地を売却するかである。ただ重要なことはどの選択肢を取るにせよ、区分所有者間でその必要性を共有することだろう。今回は修繕・改修や建替え・敷地売却をどのように判断したら良いか検討していきたい。

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01.修繕・改修か建替えかの判断方法

01.1 老朽化度合の判定

修繕・改修か建替えかの判断でまず行うこととして、マンションがどの程度老朽化しているかという点である。前記事で老朽マンションの「物理的な劣化」と「機能的な劣化」を取り上げたが、自身のマンションがどの程度老朽化しているのかチェックが必要だろう。

チェック事項の詳細は、国土交通省の「マンションの建替えか修繕かを判断するためのマニュアル」を参照頂きたいが、大きくは「管理組合における簡易判定」と「専門家による老朽度判定」に分かれる。

管理組合における簡易判定とは、区分所有者自らが「①安全性判定」と「②居住性判定」を行う。安全性判定は、構造安全性と避難安全性の観点から判定する。前記事にも記載したが、旧耐震で作られているマンションでは現在の建築基準法で求められる構造や安全性を満たさない建物もあるため、重要な判定とも言える。居住性判定とは、各種設備の老朽具合、区分所有者のマンションに対する不満や改善ニーズを調べることである。

専門家による老朽度判定には、「①構造安全性」「②防火・避難安全性」「③躯体及び断熱仕様に規定される居住性」「④設備の水準」「⑤エレベーターの設置状況」の5つの基本事項で判定を行う。※各詳細は前記事参照

専門家への老朽度判定には当然費用が発生する。修繕・改修か建替えかの検討が浅い段階で予算措置が難しい場合、まずは管理組合内で判定を行い、必要に応じて専門家へ委託することが良いだろう。専門家の判定内容は、仮に建替えを行う場合などには建替えを必要な理由の説明根拠や、長期修繕計画見直しの際の基礎資料としても活用できる。

01.2改善水準の設定

修繕・改修と建替えのどちらが合理的であるかを比較判断するためには、上述の判定に基づく客観的な老朽度と併せて、区分所有者が現在抱えている不満やニーズに基づく必要がある。

マンションをどの水準まで改善したいのか、また建替えを行うとした場合、期待する住宅の水準をどう考えていくかが重要である(下図参照)。ニーズを把握するために個別面談やアンケートを実施することが有効になるが、専門家のアドバイスを求める場合もあるため、進め方には留意が必要になる。

建替えにおける要求改善水準の設定
出典:国土交通省HPより参照

01.3 修繕・改修の検討と課題

区分所有者間で改善水準の目線が分かった後は個別の検討が必要になる。修繕・改修を選択する場合、どこまで水準を満たせるかを知ることは重要になる。マンションの構造や劣化の具合によっては修繕・改修では対応できない場合もある。例えば、旧耐震基準で建てられたマンションを現在の建築基準法を満たす水準まで耐震性能を上げるために柱や外部(フレーム)の補強を行うことは多大なコストが掛かる。機能面においても、エレベーターが存在しないマンションに追加で設置するには設置条件やコストの面で難しいこともある。

建築後、相当経過したマンションにおいて、適切な修繕・改修を実施した場合においても建替えと比較するとマンションの残存期間は短くなる。修繕等は施工会社に見積りを発注することになるが、項目ごとにどの程度まで回復できるのか、できないのかを見極める必要がある(下図参照)。例えば、耐震補強の工事が行い耐震性のグレードが上がったとしても、構造躯体に使われているコンクリートの強度自体を上げることができない場合などは、いくら耐震性を上げてもコンクリートの寿命がマンションの寿命となってしまうこともある。

マンション保守とマンション性能の関係イメージ
改善水準の設定の考え方
出典:国土交通省HPより参照

修繕・改修を選択する場合、そのマンション規模によりコストの違いが生じて来ることにも留意が必要になる。下図よりマンション戸数が少ないマンションほど一戸あたりの負担割合が高まることが分かる。対して工事費は、マンション戸数と階数が上がるほど高まる傾向がある。工事費が上がる理由として、大規模マンションでは共用部分が広く確保されている関係上、その分の改修費用が掛かることや、階数が高いほど足場を要するため費用が嵩むことが考えられる。

大規模修繕工事金額
出典:国土交通省HPより参照

修繕・改修を選択する場合の留意点として、専用部分の修繕・改修は費用が個別負担という点も挙げられる。大規模修繕と併せてオプションとして専用部分の工事を行える場合もあるが、あくまで大規模修繕がメイン工事となるため、改修できる選択肢も限られる。例えば、階高を現在の分譲マンション並みに高くしたいと思った場合でも、大規模修繕で行うことは非常に難しい。また隣戸との騒音問題で遮音性能を上げたいとしても、構造上の問題で選択肢が限られることもある。

コストの面においても留意が必要である。、共用部分は毎月修繕費として積立てたものを使用できるが、専用部分の修繕費は自己負担になる。建替えとの比較において、専用部分の負担分のコストも含めた比較が必要になる。

01.4 建替えの検討と課題

改善したい水準が修繕・改修では実現できない場合に建替え又は敷地売却を検討することになる。実際には改善したいイメージを基に、敷地条件や建築条件などを勘案し構想案を作成することになるが、構想案の実現性や事業性を客観的に捉えることが重要になる。例えば区分所有者の負担が大きいことが見込まれる場合、当初より敷地売却も年頭に置いた計画を立てる必要性もある。

なおこの段階では専門家(建築関係、コンサルタント)の助言や協力が必要になるため、費用負担の検討も同時に行う必要がある。

また、地元行政の地方公共団体との協力も重要になる。検討段階の初期から使える補助金や各地方行政公共団体の制度の情報、専門家の情報などを取得することが出来る。

建替えを選択する場合、修繕・改修とは異なり、基本的には管理組合で設定したマンションに期待する改善水準を満たすことが可能となる。問題はコストと実現性である。

国土交通省の「平成28年度マンションの再生手法及び合意形成に係る調査」によると、マンションの建替えに要する区分所有者の負担額は年々増加傾向にある。理由として原材料と工事費(特に人件費)の高騰が挙げられるが、直近もマンション価格の高騰に見られるように下がる気配は見えない。

大規模修繕工事金額
出典:国土交通省HPより参照

実現性については、前記事にも記載した通り、マンション建替えが進まない理由として事業成立性の低さが挙げられる。例えば都市計画・建築規制上の既存不適格マンションである場合、既存の容積率を満たすことすらできない場合がある。当然、容積率を小さく建替えると、従前の権利者が全て戻って来た場合だと一戸当たりの面積は小さくなる。また余剰床を作ることができず、デベロッパー等の事業者の参画ができないことにより事業性が上げられないことも生じる。

一方、建替えや敷地売却には推進を後押しする補助金や制度が多く存在することも事実である。修繕・改修と比べる際についても、単純な建替えと比べるのではなく、補助金や制度を活用した建替え事業又は敷地売却事業を比べるべきである。

02.修繕・改修か建替えかを決めるために

修繕・改修を選択した場合、修繕・改修では改善できない点が出て来ること、構造上コストが上がりやすくなる場合があることや専有部分の改善には別途費用が生じるなどの問題点を述べた。また、建替えを選択することにおいても、敷地条件の制約や建替えコストの上昇など実現性の課題を述べた。どちらを選択するにせよ、重要な点は区分所有者間が共通して合意できるラインを見つけることである。

また老朽化したマンションでは高齢の区分所有者も多く存在するが、マンションは資産という観点からも、早期に家族・親族間で意見の調整を図り方向性を決めることが重要である。

具体的な検討の進め方としては、①老朽化の客観的な把握や区分所有者のニーズの把握、②改善水準の設定、③各選択肢の調査・検討である。特に③については専門家への委託が必要になるため、費用負担を抑えるためにも、以前の記事にも紹介した「マンションストック長寿命化等モデル事業」のような初期の検討から補助金がでる制度を積極的に活用することをお勧めしたい。しかしながら、数ある補助金や助成金を認知し、申請を行うことは専門性も高く管理組合だけでは難しい(国や自治体の制度には予算状況で申請枠が限られているものもある)。そこで、マンション再生の機運が高まった段階で専門家(コンサルタント等)に相談・委託することが有効になる。

次回の記事では、具体的なマンション再生の手法や手段制度を紹介したい。

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