2023.04.21

マンション再生の手法について

 

はじめに

前記事において、どのようにマンション再生の手段を決定すれば良いかについて述べた。重要なことは、マンションの客観的な老朽具合を把握した上で、どの水準まで改善をしたいかを区分所有者間で共有し、意思決定することであるとした。また、修繕・改修、マンション建替え又は敷地売却するにせよ課題を有することも述べた。本記事では個別のマンション再生手法について更に深堀していきたい。

マンション再生
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01.マンション再生手法の種類

01.1 修繕・改修

管理組合において設定した改善水準を満たす方法として修繕・改修を選択した場合、最終的には管理組合での「改修決議」を踏まえる必要がある。改修決議の成立要件はその工事内容によって異なるものの、仮に耐震性能やエレベーター設置など(共用部分の形状又は効用の著しい変更を伴うと見なされるもの)は区分所有者及び議決権の3/4以上を要する特別議決となる。そのため、修繕・改修部分の箇所はもちろんのこと、適切な見積りによる委託先選定も重要になる。以下、修繕・改修までの一般的な流れを記載する。

大規模修繕・改修の基本的な流れ

どのような修繕・改修を行うにせよ、管理組合内で計画組織を組成する必要がある。

次に専門家を選定し修繕・改修計画を作成するが、合意形成を円滑に行うため、専門家のみならず管理組合内の組織を中心に各区分所有者の意向把握や意向反映を行うことが重要である。特に資金計画は区分所有者が特に懸念する事項なため、改修項目の洗い出しや必要性、複数見積りの実施などを慎重に議論することが求められる。

改修工事に着手する際には、共用部分の工事であっても居住者の協力を得なければ工事できないこともあるため、充分な周知が求められる。事前に施工者の説明会の実施や工事期間中の進捗説明などを行うことで円滑な工事を行うことができる。

一方、例えば耐震改修工事などは、構造自体を補強するため工事期間が長くなるケースが多い。また躯体を工事する場合などは住みながらの工事ができないため、工事期間中は仮住居に移転しないといけない場合があることや、住み続けられたとしても騒音・振動の問題がある。

耐震改修工事の例

外部補強 柱の補強 開口部の補強
出典:東京都HPを加工して作成

リファイニング建築というのは、株式会社青木茂建築工房の登録商標で、主宰する青木茂氏が提唱した新たな再生手法である。上述のリフォームやリノベーションとは異なり、既存建物の耐震性能を建物の軽量化や耐震補強によって現行法レベルまで向上させるとともに、既存構造躯体の約80%を再利用しながら、建て替えの約60~70%のコストで、大胆なデザインの転換や用途変更、設備一新を行う手法である。

メリットとして、機能的・耐震的に新築と同等に生まれ変わり、既存建築ストックの有効な活用が期待できる点である。

01.2マンション建替え

マンション建替えには、一般的に区分所有法に基づく建替えとマンション円滑化法に基づく建替えに分かれる。どちらもメリット・デメリットがあるため、各マンションが抱える課題や特性に合わせ選択することが求められる。ただどちらを選択するにせよ、大規模修繕で求められる特別議決以上の区分所有者の同意が必要になるため、管理組合と専門家が協力し事業を進めていくことが求められる。

建替えの事例

建替えの事例
出典:株式会社ジェスコンHPより参照

建替え決議までの基本的な流れ

マンション建替えを行う前提条件として、修繕・改修と比べた場合の比較検討が求められる。費用対効果を含め各区分所有者の理解が得られた時点で本格的に建替え計画の検討を行うが、総会で決議することを「建替え推進決議」という。可決要件は特段法律に定めはないが、特別議決(3/4以上)と同等の議決を求める場合が多い。

この推進決議以降、検討活動の深度化に伴い設計費用やコンサル費用など支出が増えて来るため、デベロッパー等の事業協力者を選定することが一般的である。

建替えマンションの設計概要や事業費の概算や建替え理由(修繕・改修との比較)などが整理できた段階で区分所有者に建替えの是非と問う「建替え決議」を行うことになる。建替え決議には区分所有者の人数・議決権の4/5以上が必要になるため、この段階ではできるだけ多くの賛同を得る必要がある。

区分所有法に基づく建替え

建替えに関する区分所有者間の合意が成されれば特別な法手続きに基づかなくとも建替えを行うことができる。従って、関係権利者(借家人や抵当権者等)の全員の同意が確実な場合などは、あえて円滑化法に基づかずに後述の等価交換方式による建替えを実施する場合がある。それが困難な場合、区分所有者多数の賛成で建替えを決定し、反対者から売渡しを受けることによって法的に合意を達成することが区分所有法に基づく建替えである(下図参照)。

区分所有法に基づく建替え
出典:国土交通省HPより参照

等価交換方式に基づく建替え

マンション建替え円滑化法以前のマンション建替えにおいて主流だった手法として等価交換方式の建替えがある。これは、建替え合意者全員が事業代行者(デベロッパー等)と個別に等価交換契約を締結し、事業代行者が建替え事業を実施するものである。

こちらの手法は、手続き等の制約が少ないため、場合によっては後述のマンション建替え円滑化法による建替えより迅速に事業を実施することができる。また、従前の区分所有者には交換に際して生じた譲渡益に対する課税を繰延できるなど税制面での特例も適用される(立体買換えの特例)。また、後述のマンション敷地売却制度と同様に余剰床が生じた際に処分するリスクを負わなくても良いメリットがある。

デメリットとして、全員同意が前提のため合意者が反対に転じた場合、事業が中断するリスクがある。また事業代行者であるデベロッパーが倒産や債務不履行等になった場合、権利の保全が保たれないといったリスクも抱える。

マンション建替え円滑化法に基づく建替え

マンション建替え円滑化法制定以前は、上述の区分所有法に規定される建替え決議以降の進め方について不明確な部分があった。そのため、民間のデベロッパー主体の等価交換が建替えの主体となっていた。そこで、施行主体である区分所有者の資金調達がし易くなることや多数決による事業推進の担保性、権利の保全がなされることを目的にマンション建替え円滑化法が作られた。基本的な進め方は以下の通りである。

建替え決議以降、都道府県知事の認可を受け、建替え合意者5人以上が共同して法人格を有する「建替組合」を設立することができる(組合施行という。全員同意型の個人施行もある。)。建替組合が建替え事業を施行する主体になるが、建替組合には区分所有者だけでなく、デベロッパーなどが参加組合員として参加することができる。参加組合員が入ることで建替組合の与信力を上げ、資金調達などをし易くすることができる。

建替組合が設立した後、従前のマンションの区分所有権や敷地利用権又は抵当権を従後のマンションに一括で移行する計画を立てる必要があるが、それを「権利変換計画」という。権利変換計画は建替組合の特別議決(4/5以上)と関係権利者(借家権者・抵当権者など)の同意を踏まえて都道府県知事への申請・承認を得る必要がある。

建替組合設立以降の進め方

建替組合設立以降の進め方
出典:東京都HPより参照

権利変換計画が認可されると、権利変換期日に一括で権利が移行されることになり、施行マンション(建物)は施行者である建替組合に帰属することになり、工事着手の権限や明渡しの法的拘束力を持つことになる。多数決による事業推進の担保性はこの手続きを経ることで受けられることになる。転出する方はこの権利変換日前までに従前権利と同等の補償費を受け、権利変換期日において当該権利は抹消することになる。

このように、マンション建替え円滑化法に基づく建替え事業は法手続きに則ることで強制力を持つ反面、手続きが煩雑かつ難易度も高いため往々にしてスケジュールが延びるデメリットを有する。

自主建替えという選択

これまでの建替え実績の多くが上述のどれかの建替え手法に基づくものである。共通点として、区分所有者が取得する権利床以外の余剰床(保留床)を処分することで建替えに必要な資金を調達する点である(下図参照)。しかしながら、過去の記事でも(マンション建替えの現状と施策・マンション再生手法の決め方について)述べたように建替えするマンションが既存不適格等により建替え後の容積率が減る場合や、郊外の団地で従前より需要が見込まれない場合など事業性が見込まれないマンションにはこの手法を取ることが難しい。

余剰床(保留床)を活用する建替え事業

剰床(保留床)を活用する建替え事業
出典:東京都HPを加工して作成

こうした余剰床を処分する前提のマンション建替え事業が成立しない場合、組合員の自己負担で建替えや自ら資金調達・余剰床(保留床)処分を行い建替え事業を行うことを自主建替えと言う。

自主建替えのメリットとして、参加組合員や事業代行者などデベロッパーが利益を出す余剰床を捻出する必要性が無いため、これまで建替え事業を断念したマンションにおいても実施できる可能性があることだ。

デメリットとして、事業協力者が存在しないため、人的・資金的な協力が得られないこと、余剰床(保留床)が出た場合の処分責任も管理組合に生じることなどが挙げられる。当然、管理組合だけではできないため、コンサルタント等と協力して進めて行くケースが多い。

01.3 マンション敷地売却

マンション敷地売却制度

これまでのマンション再生においては、修繕・改修又は建替えを行うしか手法が無かったが、マンション敷地を売却することで生活再建を図る手法がマンション敷地売却制度である(下図参照)。

マンション敷地売却制度
出典:東京都HPを加工して作成

前回の記事(マンション建替えの現状と施策)にも概要は紹介したが、マンション敷地売却制度は、耐震性の不足し倒壊・崩壊や火災・外壁剥落の危険性があるマンションを対象に、区分所有者の多数決により、マンションとその敷地を買受人(デベロッパー等)に売却し、当該マンションとその敷地を買い受けた者がマンションの除却を行うものである。本来は民法上の規定により敷地権の売却には全員同意が必要になるが、除去の必要性があるマンションについて、多数決により敷地を処分できる仕組みとなっている。手続きとしては以下の通りである。

この事業は耐震性能等が劣り地震による倒壊・崩壊の危険性があるマンションを対象としている(下図参照)。そのため、除却の必要性に係る認定を受ける必要があるが、それを「特定除去認定」という。具体的には耐震性であれば、Is値(※)0.6未満の数値の建物が手続きを進めることができる。

※Is値(構造耐震指標)とは耐震診断により、建物の耐震性能を示す指標で、Is値0.6以上 で耐震性能を満たすとされている。文部科学省では学校の耐震強度はIs値0.7以上を保 つよう求めてる。 Is値0.3未満で大規模な地震により倒壊や崩壊の危険性が高い建物とされる。

特定除去認定(要除去認定)の対象

特定除去認定(要除去認定)の対象"
出典:東京都HPより参照

次に、マンションとその敷地を売却する先の買受人を定めることになる。買受人はデベロッパーが選定されるのが一般的である。買受人は買受計画を立てることが、買受計画とは、マンション敷地の買受け・除却、代替住宅の提供・斡旋を計画することである。この計画に対して都道府県知事からの認可を受ける必要がある(買受計画の認定)。

特定除去認定と買受計画の認定を受けた後に、マンションにおいて区分所有者の4/5以上の多数で「マンション敷地売却決議」を成立させることができる。建替えとの違いは、マンション敷地売却の場合には従後のマンションに借家権、抵当権の権利の移行をすることがないことである。そのため、権利消滅までに補償費を支払うことで権利が失われることになる。その後は、マンション敷地売却組合を設立し、事業不参加者へ売渡請求を行い、分配金取得計画の決定・認可を受け買受人に敷地を売却することになる。マンション建替え円滑化法同様、認可手続きが煩雑であるため、時間を要することがデメリットとして挙げられる。仮に途中で全員同意になる場合などは、上述の等価交換方式に切り替えることで、事業期間の短縮を図ることも可能である。特に小規模の単棟マンションについては、全員同意が見据えた段階で切り替えることも有効になる。

02.これからのマンション再生について

どのようなマンション再生を選択するにせよ、区分所有者間で協議し、充分に検討を重ねる必要がある。一方、どの手法も専門的な内容が多いため、適切にコンサルタントなどからの意見を取り入れ進めることが重要である。

高齢マンションが増加し続けている中、特にマンション建替え制度や敷地売却制度の活用は国としても積極的に後押ししている制度である。そのため、より使いやすい制度改正や補助金・助成金が作られている。一度検討を断念した管理組合においても、今一度最新の制度に基づく検討を行うことをお勧めしたい。

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